タクシーお客様日記①

紙袋六良の小話
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その日は雨が降る深夜の出来事

そろそろ営業を止めて回送表示を出そうとした頃だった。暗闇の中、誰かが手を挙げている。そうとわかる存在感がその先に在ったわけで。

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ある日、出会ったタクシーの珍客

僕はただハザードランプをつけて停車した。ここまでは鮮明に覚えている。何故ならあまりにも唐突に、その光景だけが頭の中に残る存在感があったから。

そう例える事が自然で、黒っぽいスーツに両サイドを刈り上げた長髪に、怪しいと思えるのに受け入れるしかない、お客様の存在感がその時あった。

紙袋六郎
紙袋六良

どちらまででしょうか?

そう質問する事が正解でしかない。それ以外の選択肢はなかった。お客様は少し低い声で繁華街を指定した。

この時間なら30分から40分と言った所。帰庫時間も間に合うので車を走らせた。僕は自分から話しかけるタイプのドライバーではない。お客様だって静かなほうが良い方もいるし、何より疲れている方もいるからだ。

急に電話をし始めたなかで気になる単語

走らせていると、お客様は電話をしているようだった。

ロスカットで……

かすかに聞こえた言葉はロスカットだったと思う。このお客様はトレーダーなのかな?そんな事を印象に持った。

やせ型で派手な髪型だからバンドマンかとも思ったけど、アクセサリーのようなものは見えないし、落ち着いた雰囲気以外に空気が張り詰める感覚が車内にあった。

有名人かな?そうとも考えたけど僕は元々その手の人に興味がないから、会話がかすかに聞こえても乗っかるようなことはしなかった。

そこまで教育しても駄目だったら仕方ないよね。沈めて良いよ……

会話の内容がちょっとおかしいんじゃないかなと勘付いたのはこの辺からだった。

印象的なお客様のその正体とは…・・・?

ちょっと遠い所へ行っててね、この辺りも随分と変わったね

話しかけられたのは、このような会話からだったと思う。

紙袋六良
紙袋六良

そうですね。この辺も開発が進んでだいぶ街っぽくなりましたね

僕はなんだかこのお客様は危ない感じのお仕事の方なのかもと思ってしまった。会話の中にところどころ疑問に感じるセリフがあったから。

迎えが来る予定だったんだけどね。トラブルが続いているみたいで車を拾ったんだ。運転手さんは若く見えるけどいくつなの?

紙袋六良
紙袋六良

40ですね。若く見えるとは言われた事なかったです。ありがとうございます

このような会話が続くのかと思ったら少し気が楽になった。

どうして運転手してるの?六良君

お客様はどうやら僕と年が近いらしく興味を持った素振りで質問をされた。素直にこたえようと思ったのは車内の雰囲気が和らいだからだと思う。

紙袋六良
紙袋六良

僕は今まで人に感謝される仕事をしてこなかったんです。人から感謝されるお仕事をしたいなと思ってタクシー業界に入りました

粋だねえ……それは粋だよ

日本人がいま粋と言う言葉なんて使うだろうか……言葉の選び方がどこか任侠ってやつを感じるお客様だった。

六良君家族はいるの?

紙袋六良
紙袋六良

はい子供がいますよ

子供が小さかった頃、事業に失敗してアルバイトを掛け持ちしたり仕事を増やしたり、子供に時間を使えないまま月日が過ぎてしまった。

パラレルワーカーになり人生の立て直し中の僕は、お客様に僕が過ごした人生をお話した。

なかなかほかの人間が出来る生き方じゃないね……そして折れずに生きた結果が今に繋がってる。六良君は今後ずっとタクシーやってるの?

疑問が確信に変わる

年も近い事もあってかお客様は僕を名前で呼んで会話を楽しんでいるようだった。そして目的地に近づいてお客様の指示の元、薄暗いビルの前に到着した。支払いは5000円近くの料金だった。

お客様は長い財布から紙幣を2枚出して料金の受け皿に置いた。15000円置かれていたのに気付き僕は一言。

紙袋六良
紙袋六良

お客様諭吉が多いです

少し明るい声で伝えたのは覚えている。

ああ……そのお金は六良君の接客に払うものだから受け取って。お釣りもいらないから

まさかの一万円チップである。後にも先にももう来ないであろう感謝のお金に目が点になった僕だった。ドアを開けてお客様が最後にこういった。

また

紙袋六良
紙袋六良

はい、またお会いできる日を

そのお客様が本物だった事を知ったのは営業所に帰ってからだった。ありがとうございました。

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